後藤見聞録

2020/03/23

壱岐「海里村上」が近づいた日。─壱岐リトリート 海里村上 リブランド発表会─

いまから8年ほど前、媒体の地域振興担当として九州各県の自治体営業をしていた私は、長崎県は壱岐市にある超高級旅館「海里村上」の入り口にだけ立ったことがある。
県要請のメディア招聘ツアーで案内されたのだが、宿泊客への配慮のため、名物のロビーからの眺望だけ拝ませて頂いた。

そして今年に入り、その「海里村上」がリニューアルするという知らせを受ける。
しかもなんと、事業承継でオーナーチェンジしたというではないか。
先月からデスクを担当している新しいメディア「フクリパ」で企画ができないかというリサーチも兼ねて、
本日博多区で行われたメディア向けの発表会にお邪魔してきた。

海里村上の歴史

以前年末年始を壱岐で過ごしたときはこちらまで足を延ばさなかったが、

壱岐島の中央より少し上、西側に位置する海里村上。
もとは「湯庵ひらやま」として1995年に平山旅館の二号館として開業、
その後オーナーチェンジを経て、2006年に「海里村上」としてリニューアルオープン。
2009年にJTB最優秀旅館賞を受賞している(私が伺ったのはこのあと)。
そして2018年に株式会社温故知新が事業承継し運営を開始。
第二期改装工事を終え、いよいよ来月、「壱岐リトリート 海里村上」としてリブランドオープンとなる。

事業承継の経緯

この数年、どの業界でも事業承継の話は尽きない。
特に身近なところでいくと、我が故郷・資さんうどんの事業承継はなかなかに衝撃的だった。
一方、海里村上はどんな経緯だったかというと、資さんと同じく
①経営者の高齢化
②後継者がいない
という問題から、株式会社温故知新に事業承継し、運営を任せる運びとなったそうだ。
事業承継そのものの課題はあまりにも多く書ききれないのでここでは割愛するが、
全国トップクラスとなり、
「死ぬなら最期はここに泊まりたい」
という名言までリピーターから漏れ聞こえるほどのクラス感を醸成した施設がしっかりと引き継がれたことに、まずは「よかったな」とほっとする思いである。

株式会社温故知新とは

さて、では承継した株式会社温故知新とは、いったいどのような企業なのだろうか。
今日の発表会には代表の松山氏と、新生海里村上の総支配人・奥村氏が来福されていた。

松山氏はコンサルティングファームから星野リゾートに転職後、現在の会社を創業されている。
チェーン型のホテル運営に懐疑的な立場をとり、その土地、前オーナーの想いなどを汲み上げた一点突破型のリブランディングを展開されている。
「デスティネーションホテルとして、宿そのものが旅の目的になる」をコンセプトに、海里村上の環境、施設の良さを存分に生かしながら、ポテンシャルアップをしっかりと準備し、満を持してリブランディングオープンを迎える。

松山氏が質疑応答の中で言われていた
「ホテル、旅館には4つの指標があると考えていて、だいたい良い宿でもどれか一つが欠けているものなのだけども、今回のリブランディングで、『壱岐リトリート 海里村上』は4指標すべてを備えたと思う」
という言葉がとても印象的だ。

その4指標とは、
①料理
②景色
③温泉
④客室  だという。

実際に来月お目見えする「壱岐リトリート 海里村上」は
①料理…四方を海に囲まれた壱岐の恵まれた環境で獲れる魚介、肥沃な大地の草を食べて育った壱岐牛など、言わずもがなのグルメ

②景色…事業承継前から格別のロケーションが売りだったロビーをはじめ、各客室からの眺めも今回の改装でグレードアップ

③温泉…海里村上のある湯ノ本温泉は各施設が源泉かけ流し、かつ成分は温泉認定基準値の約17倍という驚愕の泉質。数か月おきに配管を取り替えないと鉄分で詰まってしまうほどの贅沢な質と量を誇る

④客室…今回の改装で各部屋にまで温泉が引かれ、これまで以上に寛げる設えに

ということで、松山氏の掲げる4指標を達成している。これはかなり期待できそうだ。

新生「海里村上」の可能性

メディア向けの発表会となると、セットになるのが「質疑応答」。メディアの属性にもよるのだが、だいたい新聞記者さんたちが数字での目標や政治的な背景など、客観的エビデンスやちょっと意地悪な(個人的にはそう感じる)質問をすることが多い。
私は立場的にエンタメ要素かポジティブなビジネスレポート系の立ち位置での取材が多いので、あまりそうした質問は頭に浮かびもしないのだが、今回少し頭をよぎったのが
「人口減少という壱岐市が抱える課題に対し、海里村上として何か取り組まれていますか?」
もう少し突っ込んだところでいくと
「現地採用は従業員の何%ですか?」
といったところだ。
少なからず壱岐市の人との交流がある中で、近年同市が抱えている問題はニュースに上がっていないけれども複雑多層である。
事業承継者として同市に携わる以上、このあたりの価値観は聞いておきたいと思ったのだが、
発表会の後のトークセッションで、総支配人の奥村氏の口から素敵なコメントが飛び出したので最後に記しておきたい。

「壱岐市は人口がどんどん減っています。しかしそこに対して、急速に変化をもたらすようなことはせず、地元の人のスピード感と寄り添いながら、少しずつ変えていく機会を見つけ、つねに考えていきたい」
という内容のことを話してくれた。
奥村氏は海里村上の総支配人として壱岐市に入った1年半前から、100kmマラソンに参加したり、真珠の養殖をしている人がいる、といった「人単位の情報と交流」をしっかりとキャッチアップする活動を続けてきたと前段で話されていたが、

その活動は本物だろうな、と、帰りに配られた海里村上オリジナルの湯呑みから感じられた。


湯ノ本温泉の湯の花を練りこんだ焼き物だそうで、本来であれば今日の発表会の最後に壱岐焼酎や海里村上の料理長お手製のビーフジャーキー(もちろん壱岐牛)の試食などを準備したかったが、新型コロナの影響でそうしたふるまいを自粛することとなり、
「何かしたい!」
ということで、開業時に各客室で使うものと同じ湯呑みを用意してくれていた。

正直、開業まで1か月を切っている中、30名以上のメディアのために手配するのはかなり大変だったと思う。
しかも、湯の花を練りこんで焼いてくれる作家を探すという苦労を経て、私の手元にこの湯呑みが来たわけである。
今日という日の御礼を形にしたいという想いと、それをどう具現化するかの試行錯誤、そして作家を探し頼み込んで間に合わせてもらうという奔走のストーリーが、この湯呑みに滲んでいる。
この1年半、奥村総支配人がどれだけ壱岐の人々と交流し、情報を集め、壱岐の人になろうとしてきたのかがとても伝わった瞬間だった。