後藤見聞録

2019/03/24

山海塾・新作「Arc 薄明・薄暮」

福岡は開花宣言もあり、日中はかなりあたたかいのですが、それでも首元が冷えます。かといってマフラーはもうおかしい…なんだか難しい季節です。
今日は、北九州芸術劇場に山海塾の新作を観に行ってきました。

劇場から見た小倉城。とっても気持ちよさそうでした。


チケットのタイトルを見て頂けるとおわかりになると思いますが、「新作」です。


劇場のあるリバーウォークの1階に、演目の看板がかかるのですが、随分と前からこの状態でした。(笑)

で、正式タイトルは「Arc 薄明・薄暮」だったのですが、チケットや看板にタイトルが入っていないのには理由があります。

山海塾は、主宰・天児牛大(あまがつ うしお)氏が1975年に設立した舞踏グループ。全身真っ白な男性が、セリフひとつなく身体だけで様々な表現をする、とても特徴的なステージです。
主に日本とフランスが創作活動の拠点で、これまでに世界48カ国、700都市以上でワールドツアーを行ってきています。
で、そんな山海塾のタイトルがクレジットされずにきたわけは、北九州芸術劇場が「世界初演」だからなんです。そう、間に合わない。(笑)
15年前にリバーウォーク内に開館した直後から、北九州芸術劇場は山海塾をずっと支援していきているそうで、天児さんはその恩義を「世界初演」という形で返されていると今日知りました。今回の演目は、このあとフランスツアーでパリ、グラースをまわり、ブラジル・アメリカツアーまでが今年のスケジュール。来年に入って、やっと大津と東京公演です。
つまり、昨日と今日開催されたこの新作は、文字通り世界で初めての公演でした。

土曜日と日曜日で迷ったのですが、日曜日の公演は、公演後にポストパフォーマンストークがあると聞いていたので、日曜公演でお邪魔してきました。
舞台そのものは、まぁ演劇って本当に団体ごとに表現手段もその内容も様々ですが、とにかく副交感神経に揺さぶってくれる、につきます。
平たく言えば眠くなるんですが、内容がつまらないから眠くなるのではなく、心地よく弛緩させてくれるんですね。
既存の音楽を一切使わない音響と、限られた装置、光の中で繰り広げられる舞踏手たちの均整の取れた肉体いっぱいで表現される世界。
今日はプログラムをわざと見ずに鑑賞しましたが、感じたことがまんざら外れてもおらず、なんだかごほうびを頂いた気分です。

お金を払って何かを得る、という消費活動が生活の大半を占めますが、たぶん山海塾のステージは、何かを得るために行くととてもがっかりすると思います。
得る、というより自分のなかの何かを解放するための時間と考えたほうがよいのではないかと。
とはいえ、こればかりは観ないと何もわからないとは思いますが。

トークの中で、5回以上山海塾の公演を観にこられている方が結構いらっしゃいました。
ハマると抜けられないんだろうなと思いますし、その気持ち、わからなくないです。考えたり悩んだりしなくていい時間って、現代社会ではとても貴重な気がします。

最後に、山海塾の舞台美術を中西夏之先生が手掛けられていると初めて知りました。不勉強…北九州市立美術館に中西先生の作品があるので、完全に前衛美術一本の作家さんだと思っていました。
(と思って夢の美術館の図録を読み返したら、しっかり舞踏グループとの…って書いてた…舞踏グループと山海塾がつながらなかったようです…ダメですな)